今回は気分の落ち込み、うつを改善するのに有効な、行動活性化という方法について解説します。

うつと生活の関係
行動活性化とは、簡単に言うと、自分にとって楽しいと感じる活動を増やすことです。
気分がひどく落ち込んでいると、何事も楽しいとは思えないかもしれません。しかし心理学では、うつが原因で何事も楽しめないのではなく、逆に楽しい活動をしなくなったからうつになる、という場合があることが分かっています。
どのような活動がどのような気分につながるのかは、実際に行動してみなければ分かりません。そのため、行動活性化は、よりよい気分につながる生活スタイルを目指す一種の実験生活であるといえます。

行動活性化の効果
このように行動活性化は原理自体はとてもシンプルな方法ですが、うつを大きく改善させることが分かっています。行動活性化療法の有名な研究では、行動活性化は抗うつ薬、認知療法と同程度の効果があり、研究に参加した52%の人はうつ病が治り、76%の人は症状が軽減したと報告されています(1)

生活の見直し
行動活性化は、まず自分の生活がどのようなものになっているかを見直すところから始めます。このときに用いるのが下の行動記録表です(2)
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このような表に、まずは一週間、自分がどのような活動をして過ごしたかを記入しましょう。活動を記録するときは、その結果気分がどのようになったかも書いておきます。

計画の立案
一週間分の記録をとれたら、次にその記録を参考にして、これからの生活の計画を立てます。
まずは、記録された行動と気分から、どのような行動がポジティブな気持ちにつながり、どのような行動がネガティブな気分につながるかを整理します。このようにして行動の整理が終了したら、ポジティブな気分につながる行動を増やし、ネガティブな気分につながる行動を減らすように、次の一週間の計画を立てます。
もしポジティブな気分につながる行動が見つからなかった場合は、何か楽しめそうな活動を探して、計画に組み入れていきます。計画の段階では楽しめそうと思えなくても、実際にチャレンジしてみることが重要です。実際に行動するまで楽しめるかは分からない、というのが行動活性化全体の前提で、生活の記録はその確認のために行われるのです。

行動活性化を行うときのポイント
行動活性化をより有効なものにするためのポイントを二つあげておきます。
1、スモールステップで計画を立てること
ポジティブな気分につながる行動、つながりそうな行動があっても、すぐにそれを完全に実行しなくても大丈夫です。それには一定の労力が必要ですし、抑うつで悩んでいる人には難しい場合も多いでしょう。掃除をしたら気分がすっきりする、ということが想像できたとしても、それを実行することが大変だと感じる場合、最初はまずゴミを拾うだけにする。というように、計画のハードルを下げましょう。
2、認知療法と組み合わせる
認知療法はものの見方を変えることによって気分の改善を目指す心理療法ですが、行動活性化の過程でもそれを行うことができます。立てた計画を実行に移すとき、その行動を難しくしたり、喜びや達成感を損なうようなことを考えてしまうことがあります。そのような考えを自動思考として把握、検討し、より適切な認知に変えることができれば、行動活性化はよりスムーズに進むでしょう。うつ病に対して認知行動療法を行う場合、一般的に行動活性化と認知療法はセットで行われます。


(1)Dimidjian, S., Hollon, S. D., Dobson, K. S., Schmaling, K. B., Kohlenberg, R. J., Addis, M. E., ... & Jacobson, N. S. (2006). Randomized trial of behavioral activation, cognitive therapy, and antidepressant medication in the acute treatment of adults with major depression. Journal of consulting and clinical psychology, 74(4), 658.
(2)ジュディス・S・ベック(2015)『認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで 第2版』(伊藤絵美、神村栄一、藤澤大介訳)星和書店