今日は、初回のカウンセリング・心理療法について説明します。

病院への通院において初診と再診が区別されるように、カウンセリング・心理療法でも最初に行われるセッションはそれ以降のものとは異なった特徴を持ちます。相談者さんは初めての対面で緊張されるでしょうし、私の方もまだ相談者さんのことやその状況についてほとんど知らない状態で最初のセッションは始まります。そのため、早期介入が必要な特別危機的な状況でない限り、一般的にはその場ですぐに心理療法を始める、ということはありません。適切な条件が整っていない状態で見切り発車で介入を始めてもよい結果にはつながらないからです。従って、カウンセリング・心理療法の初回のセッションは以下のような目的と特徴を持ちます。

1、問題を理解し、まとめること
最初のセッションにおける最も主な目的は相談者さんの悩みについて理解し、心理臨床の専門的な知識によって問題をまとめることです。そのため、初回のセッションではまず相談者さんに自分の悩みについて話してもらうことが中心になります。ここでは傾聴カウンセリングと同じような形となりますが、必要な情報を教えてもらうため、私からも質問をさせていただきます。
相談者さんが一通り今の悩みについて話し終え、私も必要な情報が一通りそろうと、次は問題をまとめる段階に入ります。この段階では、私が心理臨床の知識から問題をまとめ、相談者さんにお伝えます。心理臨床の知識とは、発達心理学、社会心理学、精神医学、精神分析、応用行動分析の知識などです。このような多面的で科学的な知識によって相談者さんの悩みを再理解することによって、次にどのように問題を改善していくかを検討することが可能になります。場合によっては、このように問題をまとめるだけでも気分が楽になることも多いでしょう。

2、目標を決めること
問題に対する見通しが立ったら、次に目標を決め、その目標を達成するためにどのようなアプローチをとるかを相談者さんと共に考えます。相談者さんにとってどのような状態になり、どのような形で問題が解決されることが理想なのかを明確にし、私がそれに従って有効だと考えられる方法を提案します。認知行動療法であれば、認知再構成法や行動活性化など様々な技法があり、ACTにも多くのワークが用意されています。具体的な行動を行っていくための心の準備が必要であれば、傾聴を基本としたカウンセリングを行っていくことも可能です。

3、相談者さんに慣れてもらうこと
上に挙げた具体的な目的の他に、相談者さんにカウンセリング、心理療法という場に慣れてもらうこともインテークセッションの目的の一つになります。相談者さんが安心してその場にいることができ、話やすくなれるようになることはどのようなアプローチにおいても第一の前提です。初めて会った人に突然自分の悩みを打ち明けるというのは難しいかもしれません。最初から問題のことについて話す必要はないので、自分で話しやすいことからお話ください。私もなるべく一般的な話題から入るようにしています。


以前のユング派を中心とした精神分析が心理臨床の中心であった時代には、このようなインテークセッションがほとんど行われないこともあったと聞いています。なぜなら、単一の心理療法と理論に基づく限り、心理的な悩みの原因も、それを改善するための目標も常に決まっているからです。つまり、どのような人がどのような悩みを抱えていても、その原因は無意識にあり、従ってセラピーの目標は無意識の意識化にあることになるからです。このような精神分析的な理解はまだましな方で、現代においても特に個人開業の分野では、セラピストが相談者さんの悩みを自身の成功体験や経験則に照らし合わせて理解したり、どんな悩みでも潜在意識や前世に原因を持つものとして理解するという、恐るべき臨床活動を行っている人もいます。
現代の臨床心理学においては、科学的なエビデンスに基づいて複数の心理療法を統合的に用い、基礎心理学の知見も参照するという見方が普及し、それぞれの人の抱えている具体的な悩みに対して、オーダーメイドのアプローチがなされるようになってきています。